組み合わせの妙

今まで人類の歴史で大きな発明がある。

それは食材の組み合わせである。
当たり前となっているサーモンとクリームチーズ、いちごと練乳、たらことバター…などあげれば、枚挙にいとまがない。
その中でも私が最も感心している組み合わせが「トロとたくあん」だ。
海が生んだ最も贅沢な脂身であるトロと、飢えと貧しさの中で生まれた日本の保存食であるたくあんの組み合わせ。
こんなにも地位や身分が異なる2人が結ばれて、国民的カップルになった事例は過去にないだろう。
トロがやっていたであろう東カレマッチングアプリに、たくあんは登録すらできないのだ。(東カレのマッチングアプリは男性が登録する際の審査が厳しい。)
お鮨屋でトロとたくあんが出会った奇跡のような一口を味わうたびに、いつも感動すら覚えるのである。

餃子の世界でこのような大きな発明はあったのだろうか。
そもそも餃子という料理が生まれたこと自体が奇跡ではあるが、その先の革命は起きたのだろうかと。

まず忘れてはならないのは調味料の存在であろう。
一番の定番は醤油、酢、ラー油。
これを確立したと言われる中国人もすごいが、最近だと酢胡椒や酢ゆかり、からし、サーチャ醬を使ったタレもよく使われる。
【中華街の山東】はココナッツのタレを使ったり、【浜松のむつぎく】なんかはお砂糖を入れたあまじょっぱいみたらしのようなタレを使う。
それらは確かにとてもそのお店の餃子にあう。
餃子の中に入れる調味料でいうと、我が餃子の師匠であるパラダイス山元さんの発明であるゼナキングなどはまさに驚きの組み合わせであろう。

ただこれらはあくまで調味料のお話。「トロとたくあん」という組み合わせには少し及ばない部分がある。

次点にくる組み合わせとしては、付け合わせの存在である。
福島の餃子で良く一緒に盛り付けられるもやし、【岐阜のひょうたん】や【博多の旭軒】で餃子と共に出してくれるキャベツ、【三重の美鈴】の紅生姜。
どれも油っぽさを少しさっぱりさせてくれるという意味では餃子の相棒としてとても良い。
ただそれが「とろたく」のケミストリーに匹敵するかというと、そうではない。
あくまでジャニーズ的なバランスを取るための組み合わせであり、極めて普通である。

「とろたく」のようなお互いの良さを引き立てる相乗効果はここには存在しないのである。

もう少し考えをめぐらせると、かつて大阪の天兵で餃子を食べている時に、お母さんに梅干しを出していただいたことがあった。常連はこうやって食べるんだよと梅肉を餃子に塗ってくれた。
「梅干しあんまり得意じゃないんだよな」と心の中で呟きながらも食べてみると、これがとても良く合う。
餃子の脂を梅の酸がさっぱりと断ち切りながら、乳酸発酵の旨味が加わる。
すると餃子の動物性の旨味と合わさり、相乗効果が生まれ、口の中で革命が起きる。この組み合わせは確かにとても合う。
まさしく組み合わせの妙である!

ただ少しこれもインパクトに欠ける。餃子に梅をつけて食べるとなんとなくおいしそうなのが想像できるので、とろたくほどの意外性がない。

餃子界の新常識になるような革命的な発見をしたい。

そう考え初めて、早10年。
ある日、たまたま東京・町屋で用事ができた。

フラフラと餃子でも食べたいなと彷徨ってる時に出会ったのが、「甘味喫茶・中華かわばた」だった。

「甘味喫茶・中華だと…」

ショーウィンドウに目をやるとメロンクリームソーダが光輝いていた。

ビビビときた。餃子×クリームソーダ。これだ。
この組み合わせは偶然性があり、意外性もある。
なにより一見合わなそうだが、奇跡が起きる予感がある。
「とろたく」のような食材の組み合わせではないが、牡蠣とシャブリ、ハンバーガーとコーラのような餃子界最大の発見になるかもしれない。

ワクワクしながら餃子とクリームソーダを注文。
ウエイトレスにクリームソーダの提供タイミングを食前あるいは食後どちらかと聞かれたが、私は同じタイミングで出すようにお願いした。
店員も前か後の2択と決めつけていたようで、少し動揺し、怪訝な顔を見せた。
固定概念を壊すのはこういう扱いをされることも付き物だ。
地動説を唱えたガリレオは宗教裁判にかけられて終身刑となった。

私は餃子界のガリレオになるのだ。
その奇妙な客の希望に応え、ウエイトレスは焼きたての餃子とクリームソーダを同時に持ってきてくれた。
キラキラとした焼き目の餃子の隣で燦々と輝くクリームソーダ。
何か神々しさすら感じるこの2つの組み合わせ。

震える箸で餃子をつかみ、口に運ぶ。
餃子を少しばかし咀嚼し、クリームソーダのストローを咥えて、イントゥザマウス。

「お、お、お、おおおおおお!」

口の中で仲良くダンスするはずだったニンニクとメロンが激しく殴り合った。
そしてメロンに追い打ちをかけるようにクリームも殴り合いに加勢し、口内ではブレイキングダウンが勃発した。
その殴り合いは食べ終わってからも胃袋でいつまでも続いた。

「餃子とクリームソーダは絶望的に合わない」

「みかんと牛乳」、「寿司にコーラ」のような、この世の中で合わせてはいけない食べ物と飲み物の常識を、一つ作り上げてしまった。

そういう意味では私が望んでいた餃子界の大発見をすることができたのかもしれない。
そもそも人工のメロン味の飲み物に合う食べ物とは一体…。

ということで、まだ餃子に合う最高のパートナー探しは終わらない。
生きている間に、「トロ×たくあん」を超える発見をしたいと切に願い、ここに記す。

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